漆喰の抗菌性は、主成分の消石灰(水酸化カルシウム)が強いアルカリ性を示すことに由来します。ただし漆喰は、空気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムに変わりながら固まる材料で、その過程で表面のアルカリ性は徐々に弱まります。本記事では、抗菌・消臭が働く理由と、効果が弱まる・働きにくい条件を、石灰メーカーの立場から解説します。
■ 抗菌性の理由:消石灰の強アルカリ性
消石灰は水に溶けると水酸化物イオンを出し、強いアルカリ性を示します。多くの細菌やカビは、強いアルカリ性の環境では生育しにくくなります。消石灰は昔から、畜舎や農場の消毒にも使われてきました。
漆喰の壁は、表面の炭酸化は比較的早く進みますが、内部まで完全に炭酸化するまでは長い時間を要します。炭酸化する前の消石灰(水酸化カルシウム)が漆喰内部に多く残っており、水分子と反応を続けることでアルカリ性になり、菌が増えにくい状態が継続します。
■ 効かない・弱まる条件①:炭酸化が進む
漆喰が固まる仕組みは、消石灰が空気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムになる「炭酸化」です。炭酸カルシウムは消石灰ほど強いアルカリ性を示さないため、炭酸化が進むほど、表面のアルカリ性による抗菌作用は弱まっていくと考えられます。
法政大学大学院の綱島史典氏による研究(2014年)では、漆喰は施工後に長い年月をかけて大気中の二酸化炭素と反応して硬化し、それに伴って抗菌力が低下することが指摘されています。同研究では、消石灰(水酸化カルシウム)を二酸化炭素で満たした環境に置く実験を行い、pHが徐々に低下することを確認しています ※1。
京都府農林水産技術センター畜産センターが農場消毒用の粒状消石灰を屋外に置いて調べた報告では、雨を受けた消石灰粒子は約10日でpH10を下回った一方、雨を受けなかった粒子はpH11程度までの低下にとどまりました。また、同報告で2か月間屋外に置いた消石灰は、表面が炭酸カルシウムに置き換わる一方、内部は消石灰の状態を保っていたことも示されています※2。これは壁材ではなく消毒用の消石灰の試験ですが、「水分があると表面の炭酸化が進みやすい」という性質を理解する参考になります。
なお、炭酸化は表面から内部へゆっくり進むため、塗膜の内部には消石灰が長く残ります。どのくらいの期間でどの程度アルカリ性が下がるかは、塗り厚・製品・室内の環境によって異なります。
■ 効かない・弱まる条件②:表面が覆われる
漆喰の抗菌作用は表面で働くため、次のような場合は効果が出にくくなります。
- 漆喰の上に塗料やコーティング剤を塗った場合
- 油汚れ・手垢・ホコリなどが厚く付着した場合
- 樹脂分を多く含む製品で、表面に消石灰が出にくい場合
「漆喰」と表示されていても配合は製品ごとに異なります。抗菌性を重視する場合は、試験条件が示されたデータがある製品を確認してください。
■ 効かない・弱まる条件③:湿気が多くカビの栄養がある環境
アルカリ性の漆喰はカビが生えにくい材料ですが、結露が続く場所や、汚れ(カビの栄養)が付いた表面では、カビが発生することがあります。炭酸化で表面のアルカリ性が弱まっていれば、なおさらです。漆喰にカビが生える条件と防ぎ方は、No.19で詳しく解説します。
■ 抗ウイルス性について
塗料メーカーと大学の共同試験で、漆喰塗膜に接触したウイルスの感染力が短時間で低下したという発表もあります。こうした結果は、特定の製品・試験条件(ウイルスの種類、接触時間、試験体の状態)で得られたものです。田川産業でも外部試験機関に依頼して取得した漆喰の抗菌性のデータをこちらのレポートにまとめています。(ご入用の方は該当ページのフォームよりご依頼ください。)
壁に触れたウイルスが不活化されることがあっても、空気中を漂うウイルスや、人から人への感染を防げるわけではありません。発表している企業自身も、感染予防を保証するものではないと明記している例があります。漆喰の抗ウイルス性は、換気や手洗いなどの基本的な対策に代わるものではありません。
■ 消臭性の理由と限界
漆喰がにおいを和らげるのは、主に次の働きによるものと考えられます。
- 多孔質の塗膜が、においの成分を含む湿気を吸着する
- アルカリ性の表面が、酸性のにおい成分(汗のにおいの一部など)と反応する
一方で、アルカリ性のにおい成分(アンモニアなど)にはアルカリによる中和は働きません。また、吸着できる量には限りがあり、においの発生源が続けば効果は追いつきません。「においを分解し続ける」ものではない点に注意してください。
■ メーカーとしての見解
漆喰の抗菌性は、石灰が持つ化学的な性質に基づくもので、根拠のない宣伝文句ではありません。しかし、その同じ化学(炭酸化)によって、時間とともに表面の性質は変わっていきます。
なお、石灰が二酸化炭素と反応して固まる炭酸化は、田川産業が開発する非焼成タイル「LIMIX」の硬化にも用いられている反応です。伝統的な漆喰と新しい建材技術は、同じ化学でつながっています。
■ まとめ
- 漆喰の抗菌性は、主成分の消石灰が示す強いアルカリ性による
- 漆喰は炭酸化して固まるため、時間とともに表面のアルカリ性は弱まり、抗菌作用も弱まると考えられる
- 塗料や汚れで表面が覆われると効果は出にくい。結露や汚れがあればカビが生えることもある
- 抗ウイルスの試験結果は特定条件でのもので、感染予防を保証するものではない
- 消臭は吸着・中和によるもので、においの種類や量によって限界がある
■ 参考文献
※1 綱島史典「漆喰の炭酸化過程における抗菌効果の低減抑制について」『法政大学大学院紀要. 理工学・工学研究科編』第55巻、法政大学大学院理工学・工学研究科、2014年3月、pp.1-2. https://doi.org/10.15002/00010440
※2 安富政治・藤井清和「農場消毒における粒子状消石灰の経時的変化と特徴」『京都府農林水産技術センター畜産センター試験研究成績』第14号、京都府農林水産技術センター畜産センター. https://www.pref.kyoto.jp/chikken/documents/h31_4.pdf