漆喰(しっくい)とは、消石灰を主原料とする塗り壁材です。石灰石を焼いて水を加えた消石灰に、のり・スサ・骨材・水を練り混ぜてつくります。塗ったあとは空気中の二酸化炭素と反応しながら、時間をかけて炭酸カルシウム=もとの石灰石に近い成分へ戻っていきます。この記事では原料・つくり方・固まる仕組みを順に解説します。
[写真候補:漆喰仕上げの白い内壁(自然光、コテ跡が分かるアングル)]
■漆喰とは、消石灰を主原料とする塗り壁材
漆喰は塗料ではありません。ローラーや刷毛で膜をつくるのではなく、コテで塗り付けて厚みをもたせる左官材料です。内装用では厚さ1〜3mm程度で仕上げます。「薄い石の層を壁の上につくる」と考えると理解しやすいでしょう。なお「漆喰塗料」「漆喰入り塗料」は消石灰を配合した塗料であり、左官材としての漆喰とは施工方法も仕上がりも異なります。
漆喰は新しい材料でもありません。7世紀末から8世紀初めに築造されたとされる高松塚古墳では、石室の切石の上に数ミリ厚で塗られた漆喰層の上に壁画が描かれています(出典:国営飛鳥歴史公園、奈良県)。その後も城郭の外壁や土蔵に広く使われ、現在は文化財建造物の修復にも用いられています。
[写真候補:城郭または土蔵の漆喰外壁(遠景と近景の2カット)]
■漆喰の原料は4つ - 消石灰・のり・スサ・骨材
実際の漆喰は次の要素を配合した混合材料です。
・消石灰(水酸化カルシウム):主原料。硬化して壁の骨格をつくる
・のり(糊):水持ちをよくし、コテ離れ・作業性を整える
・スサ(繊維):ひび割れを抑え、塗り付けた材料をつなぎとめる
・骨材:かさ・肌合い・収縮の調整(砂、炭酸カルシウムなど)
消石灰と水だけでは実用的な壁になりません。消石灰は水を保持する力が弱く、塗り付けた瞬間に下地へ水分を吸われてコテが走りません。硬化の過程で乾燥収縮が起こるため、ひび割れも生じやすくなります。のりは水持ちを、スサはひび割れ抵抗性を担当すると整理すると分かりやすいです。内装用の既調合漆喰を規定するJIS A 6919:2020では、品質項目として「保水率34%以上」「初期ひび割れ抵抗性」「付着強さ0.10N/mm2以上」が定められています(出典:JIS A 6919:2020)。
つまり漆喰の品質は配合全体の設計で決まります。
[写真候補:原料の並置写真(石灰石/生石灰/消石灰/麻スサ)]
原料と製法による種類:本漆喰(本練り漆喰)/既調合漆喰/土佐漆喰(塩焼き消石灰・藁スサ)/貝灰漆喰。規格上は、左官用消石灰はJIS A 6902、内装上塗用の既調合漆喰はJIS A 6919で規定されています。
(関連記事:漆喰の原料は何でできている?消石灰・のり・スサの役割/近日公開予定)
■漆喰のつくり方 - 石灰石が壁材になるまでの4工程
工程1 石灰石を採る:炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分とする岩石。純度や不純物は鉱山ごとに異なり、白さが求められる漆喰では原石の質が仕上がりの色に直接影響します。
工程2 焼く(焼成):CaCO3 → CaO + CO2。900℃以上で実用的な速度で進みます。
工程3 水を加える(消化):CaO + H2O → Ca(OH)2。発熱をともないます。水の量・温度・撹拌条件で消石灰の粒子の細かさが変わります。
工程4 配合する(調合):消石灰にのり・スサ・骨材を配合。用途により配合は変わります。
[図解候補:石灰石→焼成→生石灰→消化→消石灰→調合→漆喰のフロー図(化学式併記)]
(関連記事:石灰とは?石灰石・生石灰・消石灰の違いを一度に理解する/近日公開予定)
■漆喰が固まる仕組み - 「乾く」のではなく「石に戻る」
漆喰は空気中の二酸化炭素と反応して硬化します。この性質を気硬性といいます。
Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O
つまり漆喰は、石灰石に戻ろうとする力で固まっています。この反応を炭酸化(カーボネーション)と呼びます。
[図解候補:石灰石→(焼成・消化)→漆喰→(炭酸化)→石灰石の円環図]
「乾いた」と「固まった」は別のことです。表面が乾いて白くなるのは主に水分が抜けたためで、炭酸化はCO2が壁の内部へ拡散しながら進むため、表面の乾燥よりはるかにゆっくり進行します。施工直後の壁はまだ硬化の途中にあり、養生期間が必要です。セメントの「水硬性」とはこの点が根本的に異なります。
(関連記事:漆喰が固まる仕組み|気硬性と炭酸化反応をやさしく解説/近日公開予定)
伝統材料と現代のCO2硬化技術のつながり:常温でCO2と反応して硬くなるという現象は、近年、低炭素建材の技術として改めて注目されています。田川産業でも、この炭酸化の原理を応用した非焼成のしっくいセラミックス「LIMIX」を開発しています。ただし「CO2と反応する」ことと「CO2排出量を削減する」こと、「カーボンニュートラルである」ことは、それぞれ別の話です(この点は別記事で整理)。
■漆喰を検討するときに知っておきたいこと
下地と施工条件の影響が大きい:ひび割れの一般的な原因は、下地の水引き調整不足、過度な厚塗り、養生期間の不足、低温環境での施工など。低温時の施工は硬化不良や白華につながることがあります。
性能表現は条件付きで理解する:「調湿する」「消臭する」「抗菌性がある」は試験方法・配合・施工条件で結果が変わりうるため、条件を確認することをおすすめします。
他材料との比較は用途で:珪藻土系壁材は結合材によって性質が変わるため、どちらが優れているかという問いに一般解はありません。
(関連記事:漆喰と珪藻土の違い/漆喰のメリット・デメリット/近日公開予定)
■石灰メーカーから見た漆喰
田川産業は1924年(大正13年)に福岡県田川市で創業し、炭酸カルシウムと漆喰の製造を続けてきました。近くの関の山から産出する高純度の石灰石を自社で焼成しています(出典:田川産業公式サイト)。焼成用の窯と生石灰の消化設備を自社で持つため、原石の選別→焼成条件→消化条件→漆喰の配合という流れを一つひとつ確認しながら組み立てられます。
[写真候補:石灰焼成窯の外観/消化設備/調合ラインの3カット]
現場からの相談で多いのは「ひび割れた」「コテが走らない」「色がそろわない」。単一原因で起きることは少なく、下地の吸水、塗り厚、気温・湿度、練り水の量、材料の配合が絡み合って生じます。田川産業が1964年(昭和39年)に、水を加えるだけで使える既調合漆喰「城かべ」を日本で初めて製品化したのも、配合の再現性を現場に届けるためでした(出典:田川産業公式サイト沿革)。
[田川産業確認事項:関の山産石灰石の純度・焼成条件について公開可能な範囲]
[田川産業確認事項:城かべの配合(麻スサ・のりの種類等)の公開可能な範囲]
■まとめ
漆喰は消石灰を主原料とする左官仕上げ用の塗り壁材で塗料ではない/原料は消石灰・のり・スサ・骨材・水/つくり方は採取→焼成→消化→配合の4工程/固まる仕組みは炭酸化(乾燥と硬化は別の現象)/検討時は下地・施工条件の影響と性能表示の条件確認が重要。
田川産業株式会社は、石灰石の焼成から漆喰の調合まで自社で行う福岡県田川市の漆喰メーカーです。漆喰を施工したいけど、材料の選定や仕様でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。